私の知っている非常勤講師の方だが、かなり同情すべきことになった。彼はかなり専門性の高い分野の非常勤講師をしている。私の勤務校は、非常勤講師の雇用契約は毎年更新となっている。しかし、彼の研究分野は専門性の高い分野なので、その人がいなくなったら、容易に代わりの講師を見つけることは難しい。それなので、これまで毎年、雇用契約は自動的に更新となっていた。

最近、私の勤務校は教員にも事務的な仕事をある程度はするようにと言ってきている。勤務校の財政状態を見れば、新規の事務職員を雇用する余力はないので、ある程度は雑務を受け入れるしかないと私は思っている。

しかし、その非常勤講師の方は、納得できないことは絶対に首を縦に振らない人であった。当初の雇用契約書を見せて、そこには「授業だけをするとあって、事務的な仕事をするとは書いてない」と主張した。彼は信念の人である。今までの彼の生き方を見れば、そのことは分かる。大学側は再度、彼に対して説得してきたが、彼は首を振らなかった。そしたら、ある日、経営側は彼の非常勤講師の仕事は「今年度限り」と言って来たのである。

専門性の高い授業であるから、代わりは見つかるのか疑問であるが、大学側は今年度は休講にしてじっくりと時間をかけて代わりの人を探すようだ。あるいは、他の授業を持っている人に、強引にその授業を担当させる意向との噂も聞く。学生相手であるからと言って、そんな無茶をするのか、とも思うのだが。とにかく、これは噂である。

その方は、本学以外にも、若干の非常勤講師のコマを持っている。ただ、生きてゆくためには、本学での非常勤講師のコマ数は絶対に必要である。その方の今後の生き方を心配してしまう。ただ、独り身のようなので、貯蓄でしばらくは生きていけると思うが。

専門性の高い分野の研究職だと他大学での仕事を見つけるのは簡単ではない。また、一般的なパートの仕事だが、大学の非常勤講師という仕事をしていると、代わりの仕事が見つけづらい。精々、塾の講師だろうが、専門性の高い分野であるがゆえに、塾で採用してくれるか疑問である。例えば、コンビニのパートの仕事をするなどということは、彼自身のプライドもあり、難しいと思う。ただ、プライドなどと言っている場合ではないかもしれないが。

彼は、大学との交渉の時には、雇用契約の解除までは、予想していなかったと思う。長年、自動的に雇用が更新されてきたからである。つまり、大学を取り巻く環境の悪化によって、経営者側から無茶なことも要求される時代になった、と知っておくべきだったろう。

このような場合には、組合があれば頼もしいのだが、この大学には組合もない。もしも、組合を作ろうという動きを見せたら大騒ぎになるであろう。

このような大学であり、定年が延長されて特任教授になれる人は、どちらかというとYes-Manが多いようだ。信念を持って上に意見を具申する人は、定年できっちりと退職となる事が多いようだ。国公立のように定年が65歳とはっきり決まっている組織は、教授は自分の意見をはっきりと言いやすい。Yes-Manになっても何のメリットがないからだ。しかし、私立大学のように経営陣の裁量で特任教授として雇用年数を伸ばしてもらえるとなると、その餌につられて、おとなしくなってしまう。

さて、私はどうであるか。まあ、Yes-Manであるな。あんまり信念もなくて。組織にぶら下がっているタイプだな。そのために、特任教授として雇用を伸ばしてもらっている。ただ、組織としては、信念を持っている人が一定数いる事が必要だとは思うのだが。信念を持った人を抱えるだけの懐の深い経営陣のいる組織が本当は伸びるのだろう。