10年以上も昔のことだが、自分はその当時、教務委員の仕事していた。毎年、どのような科目を開講して、どのような時間割にするのか検討するのが仕事であった。

ある年、学科の改組があって、語学(英語)の授業数を大幅に減らす必要が出てきた。語学の授業は非常勤講師の先生に依存している。つまり、多数の非常勤講師の先生にやめてもらう必要が出てきたのだ。

私は教務委員の担当者だったので、そのことを非常勤講師の先生に告げる役目であった。これは自分にとって、とても苦痛な仕事であった。しかし、教務委員であるからには、私が行わなければならない。学校によっては、郵送での通知で済ませるところもあるようだ。また年度末に近づいてから知らせる大学もあるようだ。

しかし、勤務校では、早めに知らせて、非常勤講師の先生方が次の仕事を見つける時間的な余裕を与えよう、という方針であった。そのために、決定したらすぐさま電話連絡することになった。かなりの数になるので、私だけでは心理的な負担も重いので、学科主任の先生と手分けして電話で連絡をすることになった。

ただ、英語の非常勤講師の方は全員にやめてもらうのではなくて、半分ぐらいの方にやめてもらうのである。この時に、どのようにして、やめてもらう講師を選ぶのかが問題となった。全員の先生が一生懸命教えてくれているので、甲乙付けがたい方々ばかりだ。また、英語という科目の性質上、特にこの方に教えてもらなければならないということもない。

主任の先生と話し合ったすえに、(1)本務校を持っている方(非常勤の仕事を辞めても生活には困らない)、(2)女性の方で結婚している方(旦那さんの給料で、何とか生活できる)、(3)非常勤講師だけで生活をしている方、と3つに分類した。(1)(2)(3)の順番で、やめていただくことにした。

(3)に分類される先生にやめてもらう必要がある場合でも、長く勤務されている方を優先して働いてもらうようにした。

この様に、やめていただく方の人選を決めたのであるが、それから私が電話をして、次年度の更新がないことを通知していった。私の言い方だが、はじめに、相手のかたの勤務校に対しての貢献に感謝をして、次に勤務校の状況を報告して、そして、最後に、残念ながら契約を更新できない旨を告げるのであった。

電話を受けた方は、最初のうちは何の用件で私から電話があったのか分からなくてきゃとんとしていたが、次第に事情が飲み込めてくると、いろいろな反応がある。「私をもう要らないというのですか!」「子どもがまだ小さくて財政的にも逼迫しているので、何とか考え直してください」「ショックです。とてもショックです」などの言葉を聞くのは本当に辛かった。

簡単に「分かりました。」と言ってくれる方もいらっしゃったが、大多数の方の返事は、悲しげであった。

学科の改組であるので、年次進行である。数年にわたってこんな仕事をしてきた。

最近は、法の改正があって、5年ほど非常勤講師を務めると永続勤務にする義務が生じるそうだ。大学では対策として、雇い止めの動きがあるようだ。

私の話は、かなり昔の話である。今でも、思い出しては、嫌な思い出だ。業績のふるわない企業でたくさんの社員をリストラする人事担当者などは、並々ならぬ心臓の持ち主なのだろうと推察する。