日本の科学技術の将来について若干考察をしてみたい。日本の科学技術を支えるものは、いくつかの機関がある。それは、大学であり、各種の研究所であり、企業の研究所であろう。でも、企業の研究所となると、利益を生み出す研究が中心となり、色々と制約がある。その意味では、自分の本当に関心を持ったことをのびのびと研究できるのは、大学ということになる。だが、現実は、のびのびと好きな研究ができるかということになると、いくつか疑問符がついてくる。

ここで、大学関係の研究者を分類してみたい。(1)学部生、(2)大学院生、(3)若手研究者でまだtenureを持っていない人、(4)テニュア(tenure)を得て終身雇用の身分にありつけた人、となる。

(1)と(2)の学部生と大学院生は、基本的には何を研究してもいいだろう。指導教官もあまりうるさいことは言わない。問題は(3)の若手研究者である。若手研究者の就職問題が絡んでくる。(3)の若手研究者が就職を意識して、本当は関心がないのに売れそうな分野の研究をする、あるいは考察が煮詰まっていないのに、論文を大量作成してしまう、という現象が起こっている。

私は若手の人には、出来るだけ早くtenure を与えて、のびのびと研究する環境を与えるべきだと思う。だが、あまり早めにtenure を与えると安心してしまい、研究者として怠けてしまう、と考える人もいる。このあたりは考え方の違いだが、私は現状は若手研究者の創造力を窒息させる傾向が強いと考える。

自分が本当に関心を持っていることを、研究するのが一番いいのだ。何も言わずに、お金を与えればいいのだ。若手研究者が勝手な研究をしてしまい、結果的には無駄金となることもあろうが、それらは織り込み済みでいいと思う。長い目で見れば、その方法が科学技術の振興に一番効率がいいと思う。

(4)の終身雇用となった研究者だが、すぐに学内政治や管理職としての仕事が待ち構えている。入学者の確保、入試問題の作成責任、オープンキャンパスの企画、FD委員会、広報などの仕事がある。さらに学科長や学部長となると、会議の準備や書類作成の仕事が待ち構えている。もう、無心に自分の研究に浸ることはできないのではないか。

現代は、さらに別の問題が出てきている。大学予算が減らされている現状がある。退職された教員の補充として若手研究者を正規雇用しないのだ。代わりとして、非常勤講師を雇ったり、現有のメンバーで授業を分担するとか、とにかく、正規の教員の採用は出来るだけ避けたいという方針が強い。大学の全体予算の中で人件費の割合は6割以下にすべきなどという意見が予算会議で出たりする。すると、人の採用は今年は見送るかなどという結論になる。

私自身は大学教員になりやすい時代に生まれて何とか就職できたが、今のこの時代に生まれて、若手として就職先を探すとなると、あまり自信はない。今は、本当に大変な時代だと思う。

とにかく、こんな時代が続くと若手の研究者が革新的で創造的な研究をする時間がなくなり、この国にとっても大きな損失だと思う。